何かになりたい

ネタにするほか浮かばれない

デウスエクスマキナ

姉のオナニーを手伝わされていたことを思い出すと、やっぱり死んじゃいたくなる。
私が何者か分からない場所ではこうやって吐き出せる。

姉は人の規範となる職に就き、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくしている。
なんなら社会的スキルアップ、つまりご成婚なさるらしい。
おめでとう、やっと私たちは別の人間になれたよ。


山間の小さな集落にある、いろんなことがちょっとずつフツウからズレた家庭で育った。
高校1年生まで、私たちは完全に未分化のおんなじ種類の幹細胞みたいなもんで、姉妹のセットで扱われることが多かった。
同じ寂しさと歪んだフツウを持っていて、同情?共感できる点は多かったはずだ。もうわかんなくなっちゃったけど。
化学を好きになってやっと、私たちは別の道に進むことになった。

姉は家族で初めての大学生になるために、家族との軋轢を生みながら勉強をした。
私は姉の振る舞いを反面教師として、家族の雰囲気を殺伐とさせない方法論を構築した。そして道化になった。軋轢を恐れるのと元々の怠惰な性格とが組み合わされ、勉強をせずに大学受験に落ちて、浪人生になって、姉とはマリアナ海溝よりも深い溝が出来た。

姉妹で比べられて歪んだ母親は、私たちを平等に扱おうとした。しかし性格がほとんど同じ私の方を理解できることが多く、結果歪みを再生産してしまった。
悲しいかな回や。況や私をや。

いま姉がどんな生活をして、どんなことを考えそして悩み何によって喜ぶのか、私にはもう分からない。
ただフツウへの憧れは私よりも顕著で、数年に1回会うたびに、自分の正しさが本当に正しいことを証明したくて仕方がないという振る舞いをする。
家族に対して素直になれない気持ちも、せめてフツウに近くあってほしい気持ちも理解できる。
でもそんな綺麗なもんじゃない、美談として語るべきじゃない、なぜなら終わりがないから、着地点がないからだ。
本能に忠実な生物学的父親がいるらしいことも、幼少期を新興宗教と共に過ごしたことも、現時点では解決のしようがないバグがあることも。
全部死ぬまで終わらないからだ。

結婚式とかいうイベントで、私たちの過ごした異常な日常と分化後の人生はどう描写されるんだろう。
少なくとも前半は人に磨いて見せるには汚ない泥団子で、それを受け取った人々はどんな反応をするんだろう。どんな反応をしたらいいんだろう。

私たちに彫り込まれた影を飛ばすための光は、舞台装置のスポットライトよりも明るく、なんならデーモン・コアが発した致死の光かもしれない。


デウスエクスマキナがいるんだとしたら、私が騒音に塗れて何も聞こえなくなったときは、そっと光を刺して私という道化の劇を終わらせてほしい。